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その1)マネー・ドキュメンタリー 『俺の1800万円どうしよう?』


第1章 その1)

いつものことだが、
ゲンさんは酔っ払うと理屈っぽくなる。
「バカ、さっきから言ってるだろ。20年後は必ず来るんだよ。」

ゲンさんの主張はこうだ。
若いうちしかお金は貯められない。
はやる気持ちに任せて、
今あるお金を全部使ってしまうのではなく、

いくばくかは、先のために取っておくべきだ。
それが利口なんだと・・。

オレはゲンさんの話を聞くふりをして、
スナック「理沙」のママの顔を思い浮かべていた。

俺たちのテーブルの後ろで
3人連れの女達がアヒルのような声で笑っている。
「あのー、こっちにウーロンハイ3つね!」

今日は午後からみんなでボーリングに行き、
そのあと焼肉で腹ごしらえして、
トマトの店に行って、それから理沙に行って、
今、湯豆腐だけが取り得の居酒屋にゲンさんと来ている。

だいたい日曜日の午前1時に、
酒場でくだを巻いている人間にろくな奴はいない。
(まあ、オレもそのひとりだけれど・・)

ゲンさんが店のオヤジと競馬の話をして
盛り上がっているので、
「オレは自分の金を馬になんか賭けないですよ」
と毒付いて見せた。

「バカ、賭けないうちは当たる確率ゼロだよ」

もう一杯生を飲もうとするオレを、
小さな自制心を持ったオレが引き止める。
店の中が一瞬、絵の具が滲んだように見えた。
そろそろオレも酔っ払ってきたようだ・・。

ゲンさんと別れてアパートに戻り、
シャワーを浴びた。
読みかけのマンガをぱらぱらめくりながら
ふと思い出す。
「・・月曜日はまた振込みだな。」

お金っていうのは、
目の前をすうーっと通りすぎていく。
次、また、向こうからやってくるまで
ひたすら待つしかない。

ただ、中には待てない奴がいて、
そいつは無理やりお金そのものを買ったりしている。

つまりは「借金」だ。

そいつが、オレだ・・。

オレは一応、仕事はマジメにやっている。
小さな工場だけれど、働き心地は悪くない。
毎日毎日、現場で靴を作っている。
それも婦人モノだ。

ショッピングモールで
2,990円とか3,990円で売っているやつ・・。

別に靴が好きなわけではない。
この仕事を始めたのもたまたまだ。
でも、長く居れば、
それなりに居心地がよくなってしまう・・。

布団の中に丸まりながら気付いた。
月曜日に全部振込みすると、
5万円程度しか残らない..。

そういえば、
来月はワタル達とスノボーに行くんだった。

また、頭の中でお金が素通りしていく。
オレはただ、それを見ているだけ・・。

考えてみるとここ何年も、
給料日に入金するのが日課になっている。
カード会社A社、消費者金融B社、C社。

オレに300万円の借金があるのを知っているのは、
たぶんワタルだけだ。

最初に「オレ、実は借金があるんだ」
って言ったときの、
ワタルのバツの悪そうな顔が忘れられない・・。

なんだか、
見てはいけないモノを見てしまったような
困った顔がそこにはあった。

「つうか、オレ平気だから」
「取立てとか、きつくないの?」
「いや、個人宛にしか電話来ないし」

話をしているオレよりも、
話を聞いているワタルのほうが、
つらそうな表情をしていた。

言うまでもないが、
お金に対する敏感度はみな違う。

ワタルのつらそうな顔を思い出し、
もっと困らせたいという邪心がもたげてくる。

「ワタル、先月からキャッシングの枠が増えたから、
オレ、もっと借りるわ。そいでスノボー楽しもうぜ。」
なんて言ったら、
ワタルはどう反応するだろう・・。

これは誰にも言えないが、
借金をしているオレ自身は、
奇妙な「安定感」を感じている。

だって、それは生活の一部と化しているから。

たとえば、駅に向かう通りを、
オレみたいに借金がある人間と、
貯金がある人間が並んで歩いても、
傍目には「どっちがどっちなのか」分からない。

「金を借りている」という事実は、
よっぽど深い仲にならないと普通分からない・・。
別に、自分の服に
「借金300万」とか書いているわけじゃないし。

お金を借りると、
焦ったり、気になったり、
よく眠れなくなったりする奴がいる。

それって、
要は線が細いんだ・・。
そんな奴はお金を借りるべきではない。

オレは次の日、昼過ぎまで眠っていた・・。




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