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その3)マネー・ドキュメンタリー 『俺の1800万円どうしよう?』


その3)

朝起きて、バイクに乗って仕事に行く。
道の込み具合にもよるが、工場まで20分もかからない。

オレはコンビニでパンと牛乳を買って、
いつも現場の控え室で食べている。
「オハヨッス。」

控え室はいつものように煙草の煙で溢れていた。
オレは、煙草は吸わない。
でも、けむたいのは別に気にならない・・。

この控え室には
マンガ、週刊誌が山積みされている。
ノブオがギャクマンガの全巻(1~60巻)を寄付してくれ、
それが今では一番人気だ。

オレは控え室の時計を見ながら思う。
仕事をしているときは、それに集中するが、
仕事の直前というのは、ちょっと憂鬱になるものだ。

ひとつの可能性として、
「ここではない、どこかに、もしすべり込んでいたら・・」、
そういうことを時々考える。

もし、他にすべり込める場所があったとしたら、
それはいったい何処なのか・・。

今とは違った可能性があり、
まったく違った「道すじ」が浮かび上がり、
そちらに向かって歩いている、
「今のオレとは違う自分」を想像してみる・・。

「そろそろ行くぞ!」
ゲンさんがみんなに声を掛ける。

仕事をしているときは、
余計なことは考えないが、
仕事が終わり、ひとりで晩めしを食べているとき、
無性に恥ずかしくなることがある。

33歳にもなって、
その日暮らしで、
おまけにお金のことでは文字通り毎日綱渡りで、

オレの日常は八方が塞がっているのだが、
不思議なことに、
時間という「抜け道」だけが
ずっと先のほうまで続いている。

できるだけ事を深く考えず、
うまくやり過ごして、
その日、その日を暮らしていく・・

多分オレは、
時間の流れに乗ることに集中しているのだ。

まるで、
ハムスターが滑車で回り続けているのと同じだ。

今しがた、ちらっと感じた
恥ずかしいという感覚は、
不思議なことに、
しばらくすると日常の中で溶け始める。

そして、気付かないうちに蒸発して、
最初からなかったような錯覚に陥る・・。
これが「諦める」ということの中身だ。

工場内は、さまざまな光で溢れている。

今日は池さんも来ているし、
現場はなんとか回りそうだ。
15時になれば、バイトの斉藤くんも来る。

「もしかすると、今日は500足いけるかもな。」
オレはノブオに呟いた。

「翔さん、この前、ボクのボトル飲んだでしょ?」
ノブオは的外れなことを言う。

ウィーンという低い音を立てて機械が起き上がる。
ゲンさんがトーラスターの機械を入れて、
現場の朝が始まった。

ここではいろいろな音が奏でられる。
貼工さんが中底をトントンと叩く低い音。

トーラスターが甲皮を挟む規則正しい音。
あるいは、
ヒーター(窯)に通した靴の中底部分を、
グラインダーで削る音・・。

ラスト(木型)のカラコロという高い音が
工場内に響き渡る・・。

スーパーの売り場と同じように、
靴の製造現場も左回りで靴が流れていく。

1回目の休憩のとき、
ワタルが現場に遊びに来た。

ワタルが働いているのは、
俺達が勤めている工場の1階下だ。
ワタルは裁断場で甲皮の裁断をしている。

裁断とは、抜き型を使って、
靴の上半身、つまり甲皮部分を
ひとつひとつ裁っていくことだ。

抜き型そのものは鋭利な刃物だから、
よそ見をしながら、
ガッチャンとやってしまうと指が飛ぶ・・。

靴は3つのパートに分かれていて、
要は、上と、真ん中と、下だ。

「上」の部分が甲皮と呼ばれる。
靴の上半身を覆う。

そして「真ん中」が中底だ。
靴の背骨のようなもの。

そして、「下」の部分が本底だ。
婦人靴の場合、ヒールも含まれる。

男物の靴は文字通り「製品」だが、
女物の靴は「流行商品」だ・・。

ファッションのトレンドや天候の変化に、
もろに影響を受ける。

旬の時期を逃すと、
とたんに売れなくなってしまうのだ。
したがって、納期はとても厳しい。
当然、俺達にもしわ寄せが来る・・。

仕事をしている間は、ダメなオレは姿を消す。
さまざまな音の膜に包まれて、オレは体を動かすのだ。




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